誰が言ったか分からない「」をタイトルに使う朝日と産経

朝日新聞の12月22日のネット記事にこんなものがありました。

対アマゾン、電子書籍で連携 書店や楽天など13社、めざせ「ジャパゾン」:朝日新聞デジタル

国内の書籍関連企業13社が協力して、電子書籍販売推進団体を新たに設立して、リアル書店での電子書籍販売の実証実験をする予定だ、という記事です。

内容は置いときます。注目するのはこの記事のタイトルの付け方です。

「ジャパゾン」という言葉が非常にキャッチーなものになっています。というか「ジャパゾン」という言葉がタイトルになっていなかったら私がこの記事のリンクをクリックすることはなかったと思います。

全文は会員登録しないと読めませんが無料で読める冒頭文にはこうあります。

紀伊国屋書店など国内の書店や楽天ソニーなどの電子書店、日販、トーハンなど取次業者の計13社が、書店での電子書籍販売に乗り出す。書店だけで買える人気作家の電子書籍を用意する構想もあり、業界で一人勝ちを続けるアマゾンに対抗できる連合体「ジャパゾン」を目指す。

Amazonに対抗して「ジャパゾン」。この安直なダジャレ風の言葉が新しく設立される電子書籍販売団体の痛さを誘います。ネットでは痛々しいニュースが人気があります。はてブのコメントを読んでも半分近くが「ジャパゾン」へのツッコミに占められています。

この「ジャパゾン」、一体誰が言い出したんだ?この興味だけで私は朝日新聞デジタル無料会員が1日3つまでしか使えない「続きを読む」を開きました。驚くことに記事の続きには「ジャパゾン」なんて言葉が一言も書かれていない。さらにAmazonへの言及した部分すらも記者が地の文で書いているだけです。

ちょっと待って。

タイトルにカギ括弧付きで「ジャパゾン」なんて言葉があったら、書店関係者の誰かが「今回の連携では日本のAmazon、すなわち『ジャパゾン』を目指します(ドヤッ」なんて痛い発言をしてるかと思っちゃうじゃん。

でもそんな発言は記事には書かれてなくて、結局、先の疑問について分かったことは、「ジャパゾン」というのは執筆者の守真弓記者が記事に合わせて作った造語だろうということでした。

それにしても何もないところから「めざせ『ジャパゾン』」という茶化すような見出しをつけたとしたら、記事の対象となる書店などに全く失礼な話で、今回の取り組みを揶揄するにしてもこんなの2chスレタイでも見かけません(誤読・誇張したスレタイはよくありますが)。一体記事の執筆者は何を元に「ジャパゾン」という言葉を作りタイトルにつけたのか…

そんなことを思っていたら、こっちの記事に答えがありました。

書店で電子書籍販売へ 来春から13社、アマゾンに対抗:朝日新聞デジタル

 

この記事は上の「ジャパゾン」記事とほぼ同じ内容ですが、関係者がAmazonに言及した下の一文が新たに加えられています。

コンソーシアムに参加する書店の社長の一人は「アマゾンに対抗するには組織が必要。小さな書店も加われる形にしていきたい」と話す。

なるほど。「めざせ『ジャパゾン』」という見出しの言葉は、この関係者コメントを膨らませて作られたものだと、自分の中では納得しました。それでも相当な煽りタイトル^^;

(しかし朝日新聞デジタルによくあるのだが何故全く同じ内容の記事をリンク別々で複数掲載したりしているのだろう…)

ちなみに紙面ではこうなってたみたいです。

 

 

こうして記事タイトルのカギ括弧に悩んだ同日、ある意味で朝日新聞と仲がいい産経新聞でも、読者としてカギ括弧の中身の受け取り方に悩むタイトルの記事を見つけました。

【九州から原発が消えてよいのか】第6部(7) 佐賀県議会、「水に落ちた九電」叩きいつまで 大飯再稼働にも「反対」!?+(1/6ページ) - MSN産経ニュース

 原発推進の立場から佐賀県議会や反原発団体を批判する特集記事なのですが、このタイトルどうですか。カギ括弧で括られた「水に落ちた九電」という言葉がキャッチーです。

「『水に落ちた九電』叩き」という見出しから、ネット利用者、とりわけ産経読者が何を連想するか。それは「水に落ちた犬は叩け」という言葉です。一時期、韓国人のメンタルを表す韓国の代表的なことわざという触れ込みで嫌韓層に広がりましたが、元は中国の近代思想家である魯迅が書いたもので、そこから日本を含めた周辺に広まった言葉です。

で、このタイトルを見た時、いったい誰が「水に落ちた九電」なんて痛い例えをしてるんだろう、という興味が湧くわけです。カギ括弧がついているんだから誰かこう表現した人がいるんだろうと思うじゃないですか。県議会の自民議員だったり九電関係者が自虐的にコメントしているのかな、とか考えながら読んでみます。

長い記事なので読むのが大変ですが4ページ目でタイトルに使われたカギ括弧の言葉を見つけました。

結局、松尾は「佐賀県民、県議会の皆様に不快の念を持たせたのは誠に申し訳ない。発言を取り消し、謝罪したい」と頭を下げた。「水に落ちた犬を叩(たた)く」のは隣国の伝統であり、日本人の美徳ではないはずだが…。

Oh...

見出しの「水に落ちた九電」は記事対象者の誰かのコメントを使ったものではなく、記者が書いた地の文を元にしたものでした…。それならばわざわざカギ括弧付きにしなくても普通に「佐賀県議会の水に落ちた九電叩き、いつまで」という見出しにすればいいのです。有名な魯迅な言葉を引用してるだけなんだから。

しかし「『水に落ちた犬を叩く』のは隣国の伝統」って、元の言葉は伝統を表したものでもなさそうですが、この記事を書いた産経記者の想定する「隣国」が中国なのか韓国なのか気になるところです。

 

 

朝日も産経も、記事中に出てくる人が誰も言っていない言葉を普通のカギ括弧でくくってタイトルにするのは、読んでて紛らわしいので止めてほしいです。

もしかして記事に書かれた誰かの発言をタイトルにする2ちゃんねるスレタイ文化が特殊なのか?とも思ったのですが、「ジャパゾン」という言葉に釣られただけの朝日記事の反応をたくさん目にすると、やっぱりタイトルにカギ括弧をつけるときは気をつけたほうがいいんではないかなぁ。