寺社に油をまいた犯人に関するデマがネットで流れた経緯のまとめ

こんな記事がありました。

kyoumoe.hatenablog.com

 デマ指摘はいいのですけど、ちょっと「デマ」ができるまでの流れの記述が不十分な気がしたので、ここに簡単に記録しておきます。

 そもそも容疑者の名前についてデマが流れるのは、報道で実名が出ないからなんですが、マスコミの自主規制か何かでは単に「逮捕状」が出ただけでは名前を報道しないというルールになってるんですね。普段は気づきにくいことですけど。

 現時点でまだ容疑者名は匿名状態になっていますがネット上では実名・顔写真から経歴までいろいろと明らかになっています。ネットではどうやって特定したのか。

 きっかけは朝日新聞が単独スクープか飛ばし報道をして(他社も知ってたっぽいので飛ばし?)、それを他社が後追い報道、その都度犯人情報が小出しに出され、ネットではだんだんと容疑者が絞られていき最後に特定され、各サイトで自信を持ってどうどうと拡散されている、という流れです。

 その間に今回のデマ情報も容疑者候補として浮上し排除されていったというわけで、以下その経緯を簡単に記録していきます。

 

1.寺社油事件で逮捕状が出たと朝日新聞が単独報道(6月1日午前3時配信)

www.asahi.com

 この記事からネットで犯人探しが始まります。朝日新聞の記事では犯人について

米国在住

東京都内に拠点があるキリスト教系の宗教団体幹部

(52)

東京都出身

2013年に教団を設立

教団には東京と大阪を中心に100人以上の信者がいる

 という情報が掲載されており、ネットではこの情報に当てはまる宗教団体と人物を最初に特定しようとしたわけですね。調べやすいのは「東京都内に拠点があるキリスト教系の宗教団体」「2013年に教団を設立」という点。

 

 ネットではこの情報から「2013年に東京都に宗教法人として届けを出した」と読み取り、東京都生活文化局に掲載されている「東京都宗教法人名簿(平成27年3月1日現在)」を使って、この宗教団体を特定しようとしました。

名簿から「2013年設立」「キリスト教系団体」で絞り込んだ結果は以下の3件。

  1. パプテスト会系の団体で設立者が朝鮮名。

  2.  エホバの証人系の団体で設立者は女性っぽい名前。

  3.  設立者が西洋人名の団体。

  この3団体の名前と設立者が箇条書きされたものが2chでコピペ化され拡散されました。中には「名簿に書いてあるのは『登記日』だ。朝日新聞は『設立』と書いているのでこの名簿情報は役に立たない」という意見もありましたが、この時点ではまだ、「この3団体のどれか」というのが有力とされていました。また、嫌韓の風潮があるネット上では朝鮮系名前の人物が代表の1番の団体が大きく注目され、中には2,3を省略して1番の団体を容疑者の宗教団体として拡散する人が2chツイッターで出てきてしまいました。

2.新たに「医師」情報が追加(朝日新聞6月2日午前5時)

 午前3時に配信された情報でPCチェア探偵たちが3つの団体にしぼりこみ、ネット右翼が朝鮮名人物が代表の団体にターゲットを絞ってる中、朝日新聞がさらに続報を配信します。こちらにはさらに容疑者について次の情報が追加されていました。

日本人

医師

男は海外にいる

 「日本人」情報が出たことで、外国人・在日外国人ではないことが分かりました。さらに「医師」「キリスト教」「アメリカ在住」という情報から、1.で候補に挙げられた3団体以外の人物がネットで浮上しました。この人物が現在特定されている逮捕状が出された容疑者です。2ちゃんねるでは朝7時過ぎのことになります。

 さらに、この人物の立ち上げた団体のサイトに掲載された「油」に関する記事や講演動画から、他の3候補を抑えて一番有力な容疑者となります。

3.他社メディアによる続報

 朝7時以降、NHKや通信社も後追いを始め、産経新聞では容疑者が「ニューヨーク在住」という情報を掲載しました。

www.sankei.com

 2で候補に挙げられた人物の職場と合致することで、容疑者はほぼ確定とされます。

 

4.テレビ報道で逮捕状が出た人物の顔写真がモザイク付きで放送(6月1日午前11時半)

テレビでは午前中の情報番組で油事件で逮捕状が出されたことが報じられていましたが、その人物の顔写真が出されたのは11時半からの民放の昼のニュースからになります。

TBSでは11時半のトップに油事件で逮捕状が出た人物がネットに掲載していた顔写真をモザイク付きで放送し、その写真が2で候補に上がった宗教団体サイトに掲載されていた創始者の写真と一致したことから、ここでようやく今回逮捕状が出た容疑者名、宗教団体名が確定されることになりました。

news.tbs.co.jp

番外.その後

犯人名が確定になり、以降確定した犯人情報が拡散されているわけですが、最初に候補に挙げられた団体代表を犯人視してネットで発信する人がいなくなったわけではありません。情報の受け取りには時間差があるので一斉に間違った情報がなくなることはありません。さらに逮捕状の人物の出自についての嫌韓情報と間違った情報が混同されてしまうこともあります。早く逮捕されて正しい情報がマスコミに流れるようになればいいですね。

 

ただこの間違った情報が実際にどれほど流通していたかといえば、それほどでもない、というところでしょうか。間違った情報がネットで「正しいかも」とされていたのは平日早朝のわずか数時間。ネットに人が少ない早朝のことだったため一部クラスタによるツイート集中投下でツイッターのトレンドワードに間違った情報が掲載されてしまったようですが、すぐに逮捕状男の正しい情報が判明しネットでは上書き拡散が行われます。なので多くの人は正しい情報にしか触れていないかと思います。

 

いまだに間違った情報を流そうとしている人たちを見つけて「いつまでデマ流しているんだ」と批判するのはもっともですが、「デマなんてあったの?」とピンと来ない人たちも多いことかと思います。