今治タオル工業組合がNHK『ノーナレ』で放送されたベトナム人技能実習生の過酷労働問題を「下請け企業だった」と認めた件をマスメディアが報道していない件

 

 

 

 経緯を振り返る

・2019年6月24日(月)22時50分~ NHK総合で「ノーナレ『画面の向こうから―』」が放送。劣悪な日本の工場で働くベトナム人技能実習生を取材したドキュメンタリー。

www4.nhk.or.jp

 

・番組では問題の企業名が明示されなかったため、放送直後からネット上で企業名を特定する動きが始まる。愛媛県のタオル工場ということは分かっていたので、

今治タオルの工場だから#今治タオル不買運動だ」

「いや、『今治タオル』のブランドは『今治タオル工業組合』に加入している会社しか使えない。問題の企業は組合に加入していないだろうから、『今治のタオル工場』であっても『今治タオル』の工場ではない」

という論争に発展する。

 

・番組で映っていた工場の外観から、Googleストリートビューを用いて場所を特定し、そこに写っていた看板に企業名が書かれていた。そのためネットユーザーは「今治タオル」を製造する「森清タオル・オルネット」の工場だと疑う。

 

・6月25日(火) Googleストリートビューの看板を根拠に問題の工場だと疑われた「森清タオル・オルネット」が、疑惑はデマであり外国人技能実習生は一切雇用していないと発表。翌日、追記で、ストリートビューの写真は数年前のもので今は看板が取り外されている、現在は別のタオル製造会社に工場を貸しているだけで一切関与がない、と説明し、デマ拡散や誹謗中傷に対して法的措置を検討する、と声明を出す。

orunet.com

 

・6月25日(火) NHKが「ノーナレ」公式サイトに「森清タオル・オルネットは、番組で取り上げた会社ではない」という声明を出す。

web.archive.org

 

・6月25日(火)  一部スポーツ紙サイト、ネットニュース各社が、「NHK番組きっかけに無関係の今治タオル企業にネットで中傷 今後は法的措置も」などと一斉に報道。どれも「いつものネットのデマ」という論調

NHK番組きっかけに「ブラック工場」憶測 今治のタオル企業が否定声明 : J-CASTニュース 2019/6/25 16:07
NHKで報じられた技能実習生の労働問題、別の今治タオル企業にネットで中傷 NHK「番組で取り上げた会社ではない」 - ねとらぼ 2019年06月25日 20時29分

NHK「ノーナレ」ネット上の憶測否定 別の今治タオル企業に中傷「番組で取り上げた会社ではない」― スポニチ Sponichi Annex 芸能 2019年6月25日 23:30 

「ネットで誤情報が拡散」今治タオル企業が法的措置も検討、NHKドキュメンタリーで中傷殺到 - BuzzFeed 2019/06/26 11:56

今治タオル問題で中傷が続くオルネット、改めて関与を否定 今後は法的措置も - ねとらぼ 2019年06月26日 14時36分

NHK臆測否定「ノーナレ」放送後に劣悪工場と中傷 - 芸能 : 日刊スポーツ 2019年6月26日17時39分

 

・6月26日(水) twitterでは「今治タオル」への「風評」を流したとして「#今治タオル不買」運動とNHKへの非難が強まる中、放送で映った問題の工場製のタオルに「今治タオル」のブランドロゴがついていることをtwitterユーザーが発見し、やはり「今治タオル」のブランド品製造に関わる工場ではないか、と疑惑再燃

 

・6月26日(水) 今治タオル工業組合が、問題の工場は「組合員の企業ではない」ものの、「組合員等の下請け企業だった」と発表。今後は、技能実習生の労働環境の改善と、下請けまで含めた組合員の法令遵守の徹底強化をすると声明を出す。

www.imabaritowel.jp

 

で、この「今治タオル工業組合が、下請け企業によるベトナム人技能実習生への過酷労働を認めた」というニュースを、発表から2日経ってもマスメディアが報道していない

という点が非常に気になります。Googleニュースで「”今治タオル”」と検索しても、「組合が認めた」という事実を伝える記事はネットニュースサイトのものしか出てきません。朝日新聞毎日新聞といった人権に手厚いリベラル系メディアですら「組合が認めた」という数行でいいストレートニュースさえ出してません。最初に放送したNHKも地域ニュース含めて組合の声明をニュースにしていません。

 

一連の外国人実習生問題に関して、毎日新聞系のスポニチや、朝日新聞系の日刊スポーツは、「ネットのデマ」に関しては素早く報道していました。しかし「組合が認めた」というニュースは今のところスルーして無視を決め込んでいます。その点では、ねとらぼ、BuzzFeedJ-castは、「ネットのデマ」も「組合が認めた」も両方伝えていて、しっかりしてるなと思います。

 

 

マスコミが記事にするには、取材の時間が必要とも考えられます。しかし「今治タオル工業組合が、NHKで放送されたベトナム人技能実習生に対しての過酷な待遇をしいていた企業が下請けだったことを認め、調査と改善の約束を発表した」という単純な事実に対し、これをニュースにするための取材にそこまで時間がかかるものかと思います。組合に取材をかけて「声明は公式のものですか」と確認するだけで紙面に書けるじゃないですか。「疑惑」の段階なら徹底した取材が必要だと思いますが、「疑惑に対して『認める』回答をした」という話なのに。

 

地元新聞は28日に記事に

ただ地元紙である愛媛新聞では6月28日(金)に一連の問題が記事になりました。また、前日の愛媛県議会において自民県議がNHKの番組を元にした外国人技能実習生についての質問をしたようで、それも記事にされました。今後この地元紙記事を発端に、全国紙やNHK、大手通信社でも記事になるかもしれません。

www.ehime-np.co.jp

 

 

労働問題は報道されにくい?

「なんでこのニュースが報道されないんだ?」という気持ちに関連して思い出すのは今年4月に全国で起きた港湾ストライキ。日本の主要な港が閉鎖されて物流に影響あるかもしれないストライキでしたが、これも当初は全く報道されませんでした。ネットで話題になってしばらくして、ようやくNHK朝日新聞等が報道するに至りました。

togetter.com

www.j-cast.com

b.hatena.ne.jp

www.asahi.com

 

報道がされなかったストライキ技能実習生問題。共通するのはどちらも労働問題だということです。労働問題はネットでは関心が高いが、報道ニュースとしては価値が低いということでしょうか。ただ、今年6月に騒動が起きた育休パタハラ問題のカネカの件では、大手マスメディアでも盛んに報道されていた記憶があります。

 

確認してみると、twitterにカネカへの告発が投稿されたのが2019年6月1日、ネットで炎上してカネカが見解をホームページに発表したのが6月6日。その直後にNHK朝日新聞共同通信などが一斉に報道を始めていました。

News Up 育休明けの転勤内示は「パタハラ」? | NHKニュース2019年6月6日 15時20分
育休夫の転勤は「パタハラ」? カネカが該当社員の在籍認める | 共同通信 2019/6/6 18:27 (JST)
「夫が育休明け2日で転勤」ツイート反響 カネカは反論:朝日新聞デジタル 2019年6月6日21時04分

 

かたや組合の見解が出たのに報道されない外国人技能実習生の問題、かたやカネカの見解が出たとたんに一斉に報道される育休パタハラ問題。この違い。

 

ホワイトカラーの労働問題は身内ごととしていくらでも報道するが、ブルーカラーの労働問題については他人事として慎重になっているということでしょうか。うーむ。。。

 

一週間経っても報道されず&今治市による今回の問題に対するプレスリリースすらマスコミ報道無し(追記)

この一週間、「今治タオル」の報道記事を常にチェックしてましたが、マスコミサイトではついに記事が掲載されることはありませんでした。

 

また、2019年7月2日(火)に今治市からプレスリリースが出され、NHK「ノーナレ」の放送内容を理由に、今治タオルを含む今治ブランドの情報発信アイデアを公募する企画「アイアイ今治グランプリ」の募集開始を延期すると発表されました。「アイアイ今治グランプリ」は今治市のイメージアップキャンペーンの一貫でしたが、外国人技能実習生制度の適切な運用体制づくりがイメージ対策として最優先課題だと認識されたということです。

「アイアイ今治グランプリ」募集開始の延期について | 営業戦略課 | 今治市

 

しかし、この今治市の発表も全くマスコミでは報道されていません。それどころかネットメディアですらも動きが鈍くなってる状態です。すでに過去のことになっているかのよう。